「今月の給与から社会保険料が急に上がりました。保険料が高い気がするのですが、確認してもらえませんか?」
従業員から問い合わせがありました。
確認したところ、この従業員は今月から随時改定により標準報酬月額が変わったため、社会保険料を変更したのですが、誤った額で保険料の控除をしてしまっていました。
控除しすぎた社会保険料を返金しましょう。 年金事務所に納付する社会保険料が、従業員負担分と会社負担分の合計額と一致しているかを毎月確認することでミスの防止・発見ができます
社会保険料が変更するタイミング
会社や従業員が支払う社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)は給与額に基づき決定される標準報酬月額を用いて計算します。
標準報酬月額は、資格取得時に決定し、毎年9月の定時決定(算定基礎)や随時改定(月額変更)により見直されます。
決定・改定された標準報酬月額の保険料は、適用された翌月の給与から控除します。
退職者については、前月分と当月分が発生した場合の当月分の保険料を退職月に控除することになっています。
実務上は、給与締切日と給与支払日の関係で、当月分の健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を当月に控除している会社もありますが、法令上は前月分を控除することが正確な取扱いです。
したがって、標準報酬月額が決定・改定され適用となるタイミングで、給与から控除する社会保険料の額を変更する必要があります。
なお、そのほかに保険料を変更するタイミングとしては、保険料率が変更になった時があります。
社会保険料を誤っていた場合の対応策
社会保険料の返金処理
控除しすぎた場合
このケースは、本来控除すべき社会保険料の額が誤っていたものであり、算定基礎や月額変更の届出は正しく行われていたことから、従業員本人が将来受け取ることのできる年金額等に影響はなく、社会保険の事務手続きについて修正することはありません。
対応することは、多く控除しすぎてしまった社会保険料を従業員に返金することです。
返金する額がさほど大きくないときには、従業員の了承を得て、翌月の給与計算で控除すべき社会保険料を減額し調整することが実務的には多いかと思われます。
控除額が足りない場合
控除額が少なかったり、控除をし忘れていたということも発生する事案です。
控除しすぎた分を支払うということであれば、翌月の給与処理まで待たずに追加支給することも可能ですが、足りない控除額分を徴収することになると、やはり翌月の給与で清算することを検討します。
この翌月精算をするということは、厳密には「賃金支払いの5原則」の「全額払いの原則」に違反していると考えられます。
しかし旧労働省の通達では、「前月分の過払い金額を翌月で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、法第24条の違反とは認められない」とされているので、それだけで法令違反とはならないでしょう。
所得税の再計算
所得税額の修正の考え方
従業員に給与を支給する時には、支給額に応じた所得税を控除すること(源泉徴収)が義務づけられています。
給与から控除する所得税の額は、通勤手当等の非課税となるものは除外し、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の社会保険料を控除した、「社会保険料等控除した後の金額」により決定されます。
そのため、社会保険料の控除額に誤りがある場合には、所得税の計算の基となる「社会保険料等控除した後の金額」が修正されます。
その結果、所得税の額も修正される可能性があります。
ここで問題となるのは、社会保険料の控除額を誤ってしまった月の所得税の計算を、本来控除すべき社会保険料をもとに行うべきか、または、誤った社会保険料はそのままにしておくべきか、です。
ミスが発生した時の対応まで法律には規定されていませんが、法律では、「給与等の支払の際控除される社会保険料」により所得税額の計算を行うもの、と規定されていることから、社会保険料の控除額が誤っていたか否かに関わらず、実際に控除した社会保険料で計算すべきでしょう。
謝っていたその月の給与計算をやり直して社会保険料の返金処理を行う場合、所得税額が修正されることになりますが、社会保険料の調整を翌月の給与計算で行うのであれば、給与計算を誤った月の所得税はそのままとし、その翌月に実際に控除した社会保険料で所得税額を計算するのが妥当でしょう。
控除額の誤りが年をまたぐ場合
年末調整や確定申告の際に適用する社会保険料の控除は、その年に実際に支払った額、または、給与や公的年金等から差し引かれた額が対象となります。
もし、給与計算のミスにより年をまたぐ形で社会保険料の控除額に誤りがあったとしても、本来控除すべき時点にさかのぼることはせず、実際に社会保険料を支払った年の社会保険料の額を基に年末調整や確定申告を行います。
今後のための防止・改善策
会社は毎月の給与から従業員が負担する分の保険料を控除し、会社が負担する保険料と合わせて翌月の末日までに年金事務所等に納付します。
納付する額は、会社が提出した月額変更等による標準報酬月額の変更に関する届出の内容をもとに年金事務所等が計算します。
毎月20日頃、「保険料納入告知書」(通知書)または「保険料納入告知額通知書(告知書)が年金事務所から送付され、会社はそれに記載された金額を納付します。
賞与支払届を提出したときの通知書や告知書の額は、賞与にかかる保険料の額が上乗せされた納付額となります。
このように考えると、従業員の給与や賞与から控除した、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料の額と会社が負担すべき額の合計が納付額と当然一致することになります。
もし一致しないようであれば、従業員の給与から控除した額に誤りがある可能性があります。
ただし、保険料折半する時の端数処理の関係で若干、会社負担が多くなることもある場合があることや、事業主が全額負担する「子ども・子育て拠出金」が上乗せされるために完全には一致しないこともあります。
これらを理解した上で、防止・改善策として活用しましょう。
従業員から控除する社会保険料の計算が合っている場合でも、社会保険の手続きが遅れた場合には、年金事務所からの社会保険料の通知も遅れることになります。
これも一致しない理由となりますので注意しましょう。
最後に、計算では確認すべきことが多く存在するため、チェックリスト等を用いて給与計算の月の変更事項を中心にしっかり確認をするようにしましょう。
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